第4回 「真人の息は踵を以てし、衆人の息は喉を以てす」(荘子・紀元前200年頃)
― 呼吸法 ―
北京オリンピックでは、日本選手のめざましい活躍に勇気づけられた一方、コンディション作りに失敗した選手もいて、自分も現役時代、ケガも病気もなく競技会当日を迎えることが何よりも大切だったことを思い出します。
さて、前回から呼吸について話を始めましたが、調べていくうちに様々な「呼吸法」に行き当たりました。大別すると胸式呼吸、腹式呼吸、逆腹式呼吸と3つに分類され、ピラティスは胸式、ヨガは腹式、声楽は腹式、武術は逆腹式が主流になっていて、その分野によって採用する呼吸法が異なっていることは興味深いことです。では、ダンスではどの方式が一番適しているかということですが、これが大変ムズカシイ!
発声法の研究で大変大きな影響力を持っていたフレデリック・フースラーは「腹式・胸式・側腹・肋間」などのように型や方式に分類された呼吸法は、いずれも本来全体がバランスよく強調して働かなければならない呼吸機能のうちの一部のみが突出して働くことによって生まれる不完全で不自然な呼吸法であり、呼吸をそのような型や方式に分類することや、意識的に行われる機械的、方式的呼吸法はすべての発声にとって有害であるという見解を示しています。(ウィキペディアより)
例えば声楽で言えば、その目的は優れた歌唱であり、呼吸法はそのための手段に過ぎず、その手段には様々なものが存在するというのが実情のようです。ですから、ダンスの場合でも種目、ステップ、アマルガメーションによって呼吸法を使い分けてみるとよいでしょう。そして次のことをしっかり理解して踊って下さい。
― ドント・タッチ! ―
二人が同時に動き出す場合、特に動き出すキッカケのタイミングを微調整するためには、呼吸の技術が大変重要になってきます。「息が合う」、「息ぴったり」という言葉があるように、動きを合わせる前に、相手と自分の「息を合わせ」てみましょう。ホールドをして動く前に男性がゆったりと息を吸い、女性もその息に同調して息を吸う。動きだけを合わせようとすれば、互いの動きのきっかけは、ずれやすい。そして動きは、その息の結果として、同時に生まれるのです。私達は他者にふれると息づきを感じることができます。また、息づきを感じるようなふれ方が「さわる」と区別される「ふれる」ということであり、世界チャンピオンだった故ボビー・アービン先生は“Mrs Don’t Touch”というニックネームで恐れられ(^o^;)、常に「感じなさい!」と口癖のように言っていました。
ボビー先生とホールドする時、自分としては一生懸命に感じようとしてもどう感じていいか分からず、体が緊張してきて、今思えば息なんかしていなかったのでしょうね、そのうち ドント・タッチ! などと言われようものなら、ますます息を殺してそ~っとホールドしようとするので「感じなさい!」とまた怒られ、何が何だか分からないうちにレッスンが終わってしまったことを思い出します。
また、押されて踊れない、引っ張られて動けないということがダンスではよくあります。例えばマッサージの下手な人は相手の息に合わさないで、一方的に押すから痛いだけです。押すということは、押されているということです。そうすると無駄な力がなくなり、押されているのを味わおうとすると相手のからだの中に入っていけるのです。
能動的に行っていることを受動に反転させる、これこそが、動きのバランスではないでしょうか。
全身は息のリズムによって貫かれ、身体は踵において大地にふれ、大地の息吹きと一体となり、相手と息を合わせ、音楽の息のリズムとも合わせる。そして、オーディエンスの息と一体となったとき、そこに真のダンサーの姿があるように思えるのです。
(参考文献)
・齋藤孝「息の人間学」世織書房
「呼吸入門」角川文庫
・バーバラ・コナブル「音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと」誠信書房
・吉田始史「仙骨のコツは全てに通ず 仙骨姿勢講座」BADジャパン
藤本明彦
(2008年9月1日更新)