第50回 膝は曲げるために使うのか?
我が家は入居するときに、オーダー変更して和室を無くし全室フローリングにしました。畳が嫌いな訳ではなく、掃除とかの仕事を省くためにシンプルな間取りにしたかったためです。旅先の宿で井草の香りが漂う和室で寛ぐのはこの上なく落ち着きますよね。
このように、私達は畳の文化に慣れ親しんできました。正座をしたりあぐらをかいたり寝転んだり、住空間の狭い日本では大変使い勝手の良い様式でした。
そのため「膝を曲げる」という生活習慣が日常的であって、和式のトイレなどはその象徴でもありました。海外のダンス競技会では選手控室でマットを敷いて座っているのは日本人選手だけで、外人選手は椅子に座っていて、その光景は非常に対照的です。
今では禁止されているウサギ跳びなどのトレーニングが日本人の足腰を強化するために長年日本のスポーツ界で重宝されてきた背景もここにあるのかも知れません。
さて話をダンスに移しましょう。
私達が踊るときに膝を使えということを教わりますが、10人中おそらく9人までが「使う=曲げる」と答えるのではないでしょうか?また、膝を突っ張ってはいけないという言葉をよくスタンダードで耳にしますが、忠実にその言葉を守るが故に、曲げっぱなし・緩みっぱなしで踊っているダンス愛好家がどれ程多くいることでしょうか。
自分のところに初めてレッスンに来る生徒に「膝はもっと伸ばして!」と言うと、ほとんどの人から「膝は曲げておくものではないのですか?!」という答えが返って来ます。そういう膝を伸ばすことに抵抗のある人と踊ると、大変硬く、重く、踊りにくいのです。
では膝を突っ張ってはいけないとはどういうことなのか?
相手とコンタクトするとき腰が離れないように骨盤を垂直に立てるために、トゥ寄りに立つようにします。ハムストリングスと膝の裏を相手方向に働きかけるときにわずかに撓むようにしている感覚と言ったら分かりやすいでしょうか。
ではロアするときはどうしますか?これまた「ロア=膝を曲げる」と思っている人が多いのではないでしょうか?こういう人は膝のバネだけで動こうとしている傾向が強く、先にも述べた「日本人特有の足腰の強さ」の崇高な信奉者である可能性が充分にあります。ロアとは身体全体が低くなることであって、膝を曲げずに開脚することもロアの意味なのです。その時に骨盤が垂直に推進するために膝の曲げる角度を調整し、伸ばすエネルギーで大きな歩幅を作り出します。
ライズやアップも同様です。膝が突っ張ってはいけないという恐怖感にも似た考えに取り憑かれる余り、伸ばすことを止めてしまっては逆に膝を固定して本当に突っ張っていることになるのです。
膝も含めて身体は伸ばす方にエネルギーを使うべきです。また伸びることは運動のエネルギーにもなります。昨今は、多くの高齢者がダンスを習いに来ます。年をとれば、誰でも身体の伸びが悪くなってきます。そんな高齢者に、膝を曲げる事を強調してはいけません。彼らは自動的に曲がってしまうのですから。
(2012年6月26日更新)