第53回 久しぶりに学生競技ダンスの試合に行って来ました
先月末、東部日本学生競技ダンス選手権大会Ⅱ部戦の審査に行って来ました。
会場は草加市の獨協大学体育館、この日は終日雨で、前日より5~6度も気温が低く、選手諸君や我々審査員にとっても踊りやすく仕事しやすい一日だったと思います。
競技開始前に円陣を組み気合いを掛け合う大学もあれば、整列した部員を前に主将が喝を入れる大学もあり、会場は早くも熱気に溢れてきました。自分も30年前は同じ様なことをやってきたのだなと思うと懐かしさが込み上げてまいりました。
学生の大会は、個人戦の他に団体戦もあり、今回の上位6校はⅠ部戦に出場する資格を得る重要な大会でもあります。
昼休みを終え、午後はフォーメーションの競技がありました。16校がエントリーし、審査員は1校ずつ技術点・芸術点、合計20点満点で採点していきます。また、上位6校が、今日の大会の閉会後に行われるフォーメーション予選会に参加でき、あらためて18校の審査を行いました。フォーメーションだけで計34チームを3時間40分かけて審査したのは正直、大変疲れました。
各校とも、もっとテーマをしっかり理解し演じて欲しいと感じましたが、予選では落ちたもののトキをテーマにした新潟大学と、リーダー&パートナーをテーマにした千葉大のフォーメーションは面白かったです。自分の母校は今ひとつインパクトに欠け、残念ながら良い点数はもらえなかったと思います。
決勝は各種目毎の単科戦なので、8組の優勝者が決まりましたが、Wのチャンピオンはロシア人の法政大学生で、学連もいよいよ国際化してきたものだなぁと驚きました。
若々しく、元気よく踊った学生諸君、お疲れ様でした。審査した自分自身もエネルギーをもらった気がします。
ひとつ気になったのが、東部日本学生競技ダンス連盟の会長がプログラムに載せた巻頭言です。
“競技ダンスは、新体操やシンクロナイズドスイミングのように、もっとアクロバティックになるべきである”というようなことを述べています。
アクロバティックとは、曲芸や軽業的、離れ業的なことと辞書にあります。競技ダンスも以前と比較すると大変に進化してきました。運動量が大きく、全身の筋肉をフルに使って踊る最近のダンスはスポーツダンスとも言われています。
一方で、そんな風潮に危機感を感じて、よりベーシックを大切にしようという動きが世界的に始まっています。ベーシックというのは、ベーシックに規定されたステップを踊ることではなく、ダンスに不可欠な基本の動きのことです。その動きの連続がステップになり、ベーシックフィガーになり、バリエーションになるのです。もっとも大切なことは、音楽を表現することであり、Wとは何か、Tとは何か、Rとは何か、ということであり、男女の織りなす流・動・美の世界であって、新体操のようなアクロバティックな動きを求められても、テクニックも、文化も、バックグラウンドも違うのです。
仮に、私たちがアクロバティックな動きを練習しても、新体操の選手にかなうわけがありません。着用しているテールコートやドレスに相応しい動きの中で、私たちが表現できる最高のものを求めていくべきと自分は考えます。
新体操は新体操、シンクロナイズドスイミングはシンクロナイズドスイミング、バレエはバレエ、ヒップホップはヒップホップであり、オリンピック種目に認定されるためにその種目の特長を棄て、刺激的なアクロバティックな動きを目指しては、ダンスそのもののアイデンティティが失われてしまうと考えるのは大袈裟でしょうか?
ダンスはまだまだメジャーではないのは分かっています。だからといってオリンピックを目指すために、大切なものを捨てていいとは思いません。世の中は常に刺激を求めています。大衆ウケするために「大切なもの」を失ってはいけません。
学生ダンスこそ、ベーシックをしっかり練習し、その美しさを競い合う原点に還るべきであると思います。
(2012年10月1日更新)