第11回 リード&フォロー その2
「待つ」
私の師匠の桝岡栄子先生はかつて「女性の視線までリードしなさい」と教えてくれましたが、学生ダンスを始めた頃の自分は動く事に夢中で、「そんな無理なこと・・・」と思ったことを思い出します。
あれから28年経った現在、未だにパートナーの視線を完全にリードすることができません。ただ、選手を引退した今でも練習を続けられるのは、それを実現しようとする気持ちがあるからだと思います。
では、リードとは一体何でしょう?
Who(誰が)
What(ナチュラルターンを)
When(シャッセ フロム PPのあとに)
Where(壁斜めに向かって)
Why(なぜ)
How(どの様に)
の5W1Hを伝えることに他なりません。
そのために、ライズ&フォール、スウィング、スウェイなどのテクニックを練習する必要があるのです。トップの選手達が違って見えるのは、本物のリード&フォローがあるからであり、すべての焦点をパートナーに完全に与えることである、と、あるコーチャーは言っています。
特に、一口にリード&フォローと言っても、リードとは何であるか、フォローとは何であるかということは、言葉にするのも説明するのも非常に難しく、感性の問題として片付けられてしまいがちになります。競技選手は、動いてナンボであって、そんな難しいことを考えてもスピードやパワーになんかなりはしないと思っていたら大間違い!
次にフォローとは何でしょう?
フォローとは、「信じて、待つこと」です。リーダーの正確なリードがくるのを信じて落ち着いて待つ。動くというのはその後の反応、反射であって、決して動きが先にあるのではありません。
「信じる」という積極的な気持ちになるには、リーダーが「信じられる」存在になることであり、「信じさせる」技術も持っているということです。この信じる・信じられる、信じさせるという信頼関係はダンサーにとって大変重要なことです。
また、「待つ」ということも同様、リーダーは「待たれている」存在であり、その期待に応える仕事をきちっとする必要があります。鷲田清一著『「待つ」ということ』(角川選書)には、待つということは待ち切ること、待つことさえやめるということと書かれています。私はそれを究極には「無」になることだと解釈しました。待たれるほうも待たれることを忘れ、「無」になる。「無心」になった二人が、ワルツという音楽に溶け込んだ時、最高のダンスができるのではないかと信じています。
現在のボールルームダンスは、スポーツダンスという表現が使われるほど、身体能力が問われているかのように言われます。しかし、本物のリード&フォローを磨かずに、スピード・パワーばかり追い求めると、バランスが悪くなり、かえってスピード・パワーは落ち、ダンスをつまらないものにするだけでなく、最悪、ケガの原因にもなりかねません。
最後に、「イングリッシュスタイルのダンス」とは、容姿のことを言うのではありません。本物のリード&フォローで踊ることですのでお間違えのないように・・・。
藤本明彦
(2009年3月1日更新)