第55回 左右の比率
移動し続けることとは、体重の移動に他ならない。
私達の素晴らしい2本の脚は頼もしい太い骨と筋肉で出来ていて、地面を蹴り出すことによって歩くことも走ることも容易になっている。踊るときにも、この2本の脚を上手に使いこなす訳だが、ダンスはパートナーと音楽とのコーディネートが最も大切であり、脚力頼みの動きでは、このことが実現できない。 パートナーを押したり引っ張ったり、曲より速くなったり、ダンスで要求される繊細かつダイナミックな踊りの妨げになってしまう。
2本の脚は、スタンディングレッグとムービングレッグの役目を交互に行っている。ここで大切なのはムービングレッグの機能だ。一昔前は、脚は身体の下にあるべきという指導が広く行われていて、脚を大きく広げることは“やってはいけないこと“のように言われてきた。
もっともこの解釈は、見た目に脚が身体の下にあるということではなく、体幹と繋がった使い方を意味することであって歩幅を制限することではないということが今では当たり前のことになっている。しかし今だに誤った解釈で踊っている多くのダンサーがいることも事実である。
自分の体重は左右の脚にどの位の比率で乗っているだろうか?もし右脚に100%乗ってから左脚に100%乗り換えるならば脚力も100%利用できるだろうが、2歩で終わりである。ダンスのように連続して動き続けるためには、スタンディングレッグに7~8割、ムービングレッグに2~3割の比率で体重をコントロールする必要がある。片脚に乗り切らないことが重要で、脚をクローズしたときこそ、両足で立ってみる。もし片脚だけに体重を100%乗せたとしたら、回転の軸を作ることになってしまう。シャッセしかり、ヒールターンしかりである。
ダンスはラケットやバットではなく、パートナーを“道具”として利用するので、自分+相手=100㎏以上の重量をコントロールする技術を身に付けることである。その目に見えない道具を使いこなすためには、極めて繊細な身体感覚を必要とする。
(2012年11月29日更新)