第12回 リード&フォロー その3
前回は「信じて待つ」というフォローのあり方をお話しました。それに対してリーダーは「信じられる」存在になる、「信じさせる」技術を持っているということもお話しました。今回は武術的な視点からリードということを更に考えてみたいと思います。
技が始まった瞬間に技が終わっている・・・
命がけの勝負をする武術の世界では、ほんの少しのタイミングの遅れが勝敗を決めてしまいます。そのためには、技が始まった瞬間に技が終わっているのでなければなりません。「技が終わった状態の体感をしっかり持ち、そこに身体を放り込め」という言い方で形稽古の指導をする合気道の先生がいると聞きます。
技が終わったときの筋肉や骨格の動き、呼吸等、未来の「体感」が現在においてリアルに想像的把握されていれば、自分の身体がトレースする動線には、少しの迂回もブレもないはずです。「北斗の拳」でケンシロウが、「お前はすでに死んでいる・・・」とつぶやくシーンはまさにこの境地を言い表した名セリフと言えるでしょう。
フロアーに立った瞬間に踊り終わっている・・・
ではダンスに置き換えてみましょう。
上手くできたときのナチュラルターンの体感をしっかり持ち、そこに身体を放り込むことができれば、自分の身体がトレースする動線そのものがリードになると言えます。
ナチュラルターンのリードを始めたとき、ナチュラルターンは終わっていて、スピンターンのリードを始めている。スピンターンのリードを始めたとき、スピンターンは終わっていて、ターニングロックのリードを始めている・・・ つまり、ナチュラルターンのリードを始めたときには、ワルツの最後のステップさえ終わっているということになります。すべてリードし終わっているのですから、パートナーは落ち着いてフォローすればいい。
時間軸を少し広げれば、フロアーに立ったときワルツはすでに踊り終わっていることになります。リードとは時間を先取りして、現在を確実に余裕を持って実行することであると言い換えることもできます。
さらに時間軸を広げれば、コンペの前日には競技が終わっていて、美味しいビールを飲んでいる自分をリアルに想像できてしまう。分かりやすく言えば、充分に練習し、コンディションを整えることができれば、コンペの当日に、あがったり緊張したりすることなく、最大限のパフォーマンスを発揮できるということです。
元世界チャンピオンのビル・アービン先生から、
「anticipate!(先を見越しなさい!)」
とよく怒られました。当時の自分はその言葉を理解できなかったことを覚えています。ちょっぴりエッチだったけれど、ビル先生は、さすがダンスの神様です。
参考:内田樹「過去に棲む者から未来に棲む者へ」 『古武術で目覚めるからだ』(2005年2月号) pp.96-105. 洋泉社
藤本明彦
(2009年4月16日更新)