第17回 コンセントレーション
(前回からの続き)
そしたら「ナオミ、今日はジャスト・エンジョイだ。それから色んな問題があっても・・・(ここで突然ティムはナオミ―――!!と絶叫する!!私、ビックリして身を縮める)こんな風に声がかかっても今みたいにビックリしないでね(笑)」と。 そう、最終レッスンは起こりうる様々なアクシデントに対する対処法。そして、ティムのボディを感じ、音楽を聴き、踊ることを2人で楽しむ事、だったのである。 しかも「何があっても必ずサポートするから安心して」と言い続けてくれた。万全である。これらの全てが私からプレッシャーを取り除きコンセントレーション(集中)を与えてくれた。
自分自身の気持ちの変化も今思うと興味深い。最初の1~4回頃は楽しくて浮かれていて、でもレッスンが進むにつれティムの要求が厳しくなり、ジョークでティムが言う「デモ、途中でやめちゃうよ」等の言葉にもピリピリし、「うまくいかなかったらどうしよう」というプレッシャーで苦しくなり、でも最後の頃はただひたむきにダンスに取り組むようになって逆にプレッシャーから解放されたのだった。
冒頭の長嶋さん、イチローさんはプレッシャーを力に変える天才と言われているが、間違いなくたゆまぬ努力を重ねて重ねてイザという時にコンセントレート出来る状態を作っていた(いる)に違いない。
パーティー当日、生徒さんのメイクをし、来て下さったプロの方々にお礼をし、いろいろな方に挨拶し、生徒さんとデモをし・・・と様々な事をし、私の目が三角になりかけると、ティムが「ナオミ、深呼吸を5回」「今度は10回」とマメに言って、一緒にしてくれたので、集中も保ったままでいられた。完璧に踊れたとは思わない。只、最善は尽くした。
ティモシーという素晴らしいダンサーと踊る事は勿論素敵だったけれど、的確なイメージの確認によって不安や緊張は無くなり、やるだけやったという自信に結びつき、よって良い集中力を保てるという過程を学べたことが本当に素晴らしかった。気さくなティムだけど、グレートなティム。そして、こんなすごい機会を与えてくれたリーダーであり夫の藤本に感謝!!カンシャ!!これからも一生懸命シャドウして良いパートナーになれるよう頑張るね! 』
ティムと直美の踊りは完璧でした。振付け、演出、構成、技術・・・どれをとってもたった12回のレッスンで、あれだけの仕上がりを見せたのは驚かざるを得ません。踊り終わったあとの挨拶の所作まで、具体的に指示があったと聞いています。正直なところ、演技を見終わった自分は嫉妬を感じていました。自分には直美をあそこまで踊らすことはできないと・・・。
ご存知のようにティムは右脚外側の感覚が腰痛のせいでマヒしています。でもいつレッスンを受けに行っても一生懸命教えてくれます。ティム自身もパーティーの前日は仕事をオフにしてマッサージをしっかり受け、万全のコンディションで臨んでくれました。当日も早めに会場入りし、入念なリハーサルをしたあと、プレゼンターの仕事もこなし、デモ直前は音楽を聞きながら繰り返し繰り返しシャドウをしていました。
たかが、いち日本人ダンサーとデモをするとは言え、ティムにもプレッシャーはあったはずです。チャンピオンとしてのプライドもあり、失敗するわけにはいかないのです。でも、それ以前にダンスに取り組む真摯な態度に、尊敬の念を覚えずにはいられませんでした。
私たちのオファーを快く承諾してくれて、見事に踊り切ってくれたMr.ティモシー・ホーソン。あなたは真のチャンピオンに違いありません。本当にありがとう。身体にはくれぐれも気をつけて、日本のダンス界、世界のダンス界で益々活躍されることを祈っています。
藤本明彦
(2009年9月1日更新)