第19回 ライズ
前回は「垂直離陸」について書きましたが、それにまつわるネタを一つ紹介します。
中米に生息する「水の上を走るトカゲ」をご存知ですか?体長80㎝のバシリスクというトカゲで、自分も映像を見た記憶がありますが、ハーバード大学の研究チームによると、水の張力を利用して垂直に水面を蹴っているそうです。「足が沈まないうちに次の足を出せば水の上を歩ける」という冗談のようなハナシがありますが、この世にはとてつもない能力を持った生物が本当にいるんですね。興味のある方はインターネットの動画ポータルサイトで「バシリスク」と検索してみてください。
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また以前、アフリカのサバンナで暮らす原住民の視力を測定した番組を見たことがありますが、彼らの視力は5.0~6.0で、通常では見つからない遠くの野生生物まで発見できるということです。わかりやすく言えば、隣のホームで電車待ちしながら新聞を読んでいる人のその新聞の文字まで読めてしまうということらしい。 生活が便利になっていくのに反比例して人間の身体能力が劣っていくような気がして、実は、人間は動物として退化しているのはないかという気がしませんか?
今回はフットプレッシャーの続きとして、「ライズ」についてお話したいと思います。
フットライズ”“ノーフットライズ”“ボディライズ”の3種類があるのを競技選手ならご存知のことと思いますが、まず「フットライズ」は文字通り、ボールとトゥを使ってライズすることですが、皆さん5本の足指にどのような比率で体重をかけてライズしていますか?親指ですか?小指ですか?それとも全部ですか?
ある有名な世界チャンピオンの本によると、「親指に50%、残りの指に50%」と書いてあります。ここで大事なことは、親指以外の指もしっかり使うことが大切だということです。ダンスをある程度、学習すると、親指が重要だということは分かってくるのですが、度が過ぎると親指だけに頼ってしまう傾向があります。
そうなると、動きの硬い踊りになってしまうばかりか、親指や膝を痛めることになりかねません。また、フットライズするときのコツは、カカトの上に背骨を乗せる感覚でライズをすることです。ぜひ実験してみてください。
次に「ノーフットライズ」ですが、教科書の定義によると「主として後方にステップするときの内側回転で起こり、支え脚のヒールは全体重が次のステップがとられるまでフロアーにコンタクトしている。ライズはボディ及び脚のみに感じる」とあります。これは目に見えないライズなので大変分かりづらいのですが、このテクニックがしっかりしていないと、例えばヒールターンは上手にできません。パートナーがライズもしくはアップしているときに自分はカカトをフロアーにコンタクトしているわけですから、高さがアベコベなわけです。もちろん、このことが、内回りと外回りの回転をバランスさせることなのですが、互いのライズの身体感覚が同じでないと、外回りのバランスを崩してしまうことになるからです。
最後に「ボディライズ」。これも目に見えないライズなので、益々分かりづらいのですが、フットライズ、ノーフットライズをするときには常に同時に行っているものです。厳密に言うと、ボディライズの後にフットライズ、ノーフットライズすると言ったほうが正確かもしれません。ボディライズが使えるようになると、大変軽く踊れるようになります。これこそ垂直離陸によって得られた身体のまとまり、体幹の中で眠っているインナーマッスルの働きそのものだということです。一流のダンサーかどうかは、この使い方の上手下手によるかもしれません。どれだけ言葉を並べてもこの感覚だけは説明し切れません。汗と涙を流したダンサーだけにダンスの神様がプレゼントしてくれる感覚だと思います。この大切な贈り物をもらえるよう選手たちは日々しっかりと練習して欲しいと思います。
藤本明彦
(2009年11月16日更新)