第82回 タンゴの「魔」
最近の競技ダンスは動きがより変化に富みスポーツ的要素が多くなってきているのは周知の通りです。スピードとパワー溢れる踊りは観客を熱狂させ魅力ある表現のひとつになっているのは素晴らしいと思います。
特にアグレッシブなタンゴを踊るミルコ組、ベネディクト組は多くのダンサーのベンチマークとなっているでしょう。しかし僕らが彼らを真似するときに闇雲に激しく動くことだけを追究してもそんな簡単に真似できないことにすぐ気付きます。
僕はタンゴを次のようなイメージを持って踊るように心掛けています。
♦男がやっと手中に入れた好みの女を奪われぬよう周りのライバル達の様子を常に気に掛けているようなネックアクション。
♦どこから襲ってくるか分からないライバル達と対峙するために毛穴を開き毛を逆立て息を殺せば必然的に上下動を抑制するウォーク
♦簡単に振り向いてくれない女を口説くために2度・3度とドラグを繰り返す男・・・
♦自分の気配を消すが如く急速に動きを止め「間」を取りまわりの様子を伺うようなストップ&ゴー
これらの全てに共通するものは緊張感ではないでしょうか。
そして最も大切なのは「間」であると思っています。
急速に動きを止めた時の間は、隙が無く背後に目がある感覚と言ったらいいでしょうか。僕はこの瞬間が好きです。
音楽の世界でも同様のようです。横浜JAZZ協会会報誌「HAMA JAZZ」のコラムに、「間は魔に通ず」と題してジャズと邦楽の共通点として間を大切にするということがとても興味深く書かれていました。
その中からの引用ですが、明治の歌舞伎役者九代目、市川団十郎の言葉
「間には二種ある。教えられる間と、教えられない間だ。教えて出来る間は間という字を書く。教えても出来ない間は魔の字を書く。私は教えて出来る方の間を教えるから、それから先の教えようのない魔の方は、自分の力で探り当てることが肝腎だ」
ダンスの神様ビル・アービン先生はよく
「タンゴは歌舞伎を見習え」と教えてくれたことを思い出します。
*引用 横浜JAZZ協会会報誌「HAMA JAZZ」2015年2月号 小針俊郎氏
ミルコ・ゴッゾーリ&エディタ・ダニューテ組
(2015年3月2日更新)