第23回 Judge’s Eye
国内四大大会のうちの一つであるスーパージャパンカップダンスが今年も3月6日・7日、幕張メッセで開催されました。プロ・アマが、24部門総勢1,000組を超える選手の熱き戦いの中で、自分はプロ・アマスタンダードとセグエスタンダードの審査を担当しました。今回のコラムは、審査をした自分の感想や問題点をセグエ部門について述べたいと思います。
セグエスタンダードには、近年では最も多い12組の選手がエントリーしていて、今年もどのような演技で私達を楽しませてくれるか期待していました。セグエは、音楽、振付、衣装から演出構成まですべて考え抜き、一つの作品に仕上げるには準備期間が大変長くかかります。自分もセグエを作るためにドイツまで行ったことをなつかしく思い出します。一日で曲を作り、二日で振り付けを完了したゲイシャ・セグエも、オリバー先生の天才的なアイディアのお陰だと思っています。
だからセグエを作ることが大変、困難な作業であることはよくわかっています。しかも日頃やっていないリフトや、ステップを完全にマスターしなければなりません。しかし、セグエを踊れることは、日本のトップダンサーだけに許された名誉なことでもあるのです。ですから、その自負を持っていつもセグエに対しては真剣に取り組んでいました。
ところで、セグエは単なるメドレー作品ではありません。何をどう表現したいかという、例えば、踊りから、テーマが自然とわかるような、踊りとしなければ、意味がないのです。
そういう観点からすると、今回のセグエは、ほとんどがメドレー作品でした。ですから、芸術点を担当した自分にはどの作品も、同じに見えて、差をつけることが困難でした。例えば、「和」という日本の心をテーマにした作品の場合、三味線や和太鼓の演奏曲を使い、羽織り、袴をはけば、日本を表現できるということではありません。それはそれで、一つのイメージをつくることには役立つかもしれませんが、我々日本人とは何か、日本人のアイデンティティは何かという問いかけを自らにすることで、振付の端々に細やかな所作が見え隠れしてくるものです。
スタンダードセグエ12組の中で印象に残ったのは、踊るだけで幸せやねんという「ええねん」を踊った橋本組。日本人であり、関西人である自分達の現在の気持ちをストレートに表現し切った点で、テーマと踊りが見事にマッチしていました。踊る事が楽しいという、ある意味当たり前のことだけれど、それを関西風に(西部総局の選手らしく)仕上げ、自分達をさらけ出し、開き直って踊ったところに彼らの5種目にない表現力が発揮されていて良かったと思います。
それに比べて、東部総局の選手達は、気取りすぎていました。カッコ良くスタイリッシュに仕上げようとするあまり、没個性的になり、自分をさらけ出していませんでした。セグエは表現力の勝負なのだから、もっと喜怒哀楽をはっきりさせ、5種目にないダンスの奥深さを追究してもらいたいと思います。
ついでにラテンのセグエについて感想を言いますと、優勝したカップルは、大まじめにウルトラマンの世界を表現した点で、秀逸だったと思います。ラテンの正確なテクニックがない組が踊ったら、ただの色物になり下がってしまったことでしょう。その際どいところをチャンピオンとして挑戦したところに拍手を送りたいと思います。
セグエ全体として、テーマの掘り下げ方が足らないと感じました。奇抜なステップをすることが決して高得点になるわけではなく、どれだけテーマを理解し、それをわかりやすく踊って見せるかが重要なポイントなのです。シンプルでいいから、魂の篭ったセグエを踊って欲しい。来年に期待しています。
藤本明彦
(2010年3月16日更新)