第30回 これでスッキリ、陰陽思想でダンスがわかる!
約500人いる東海道新幹線の運転士の中から最も優秀な運転士を選ぶコンテストがあり、木村辰也運転士が初代ナンバーワンに輝いたそうです。
『コンテストは技術だけでなく、ペーパーテストもあり、100点満点で71点が最高点。駅での停止位置がずれた記憶はない。新横浜から名古屋駅直前の減速地点まで、ブレーキを使わず運転したことがある。「ブレーキは少ない方が乗り心地がいい。気づくお客様はいないかもしれませんが・・・」彼のこのこだわりは、新幹線の運転士になった頃、先輩から「背中でブレーキを感じろ」と教わったことによる。五感を研ぎ澄まして列車の状況を把握するという意味だそうだ。』
東洋の哲学に、陰と陽というふたつの要素で、全宇宙のすべての事象を分類しようという考え方があります。例えば、人間も男性を「陽」、女性を「陰」とし、太陽は文字通り陽であり、月が陰になります。 陽は動的で不安定、陰は静的で安定を意味します。どちらがすぐれているということではなく、ふたつの要素でバランスをとることが大切です。
さて、人間の体を陰陽で考えてみましょう。「背」は「北」と「月」なので、陰となり、北に対して日の昇る東が陽となるので、体の左側が陽となり、西側、すなわち右側が陰となります。また、前後で見ると、背が陰なので胸などの前面は陽になります。
これをダンスに応用すると、男が陽なので、リードする役目があり、女が、そのリードを受け入れる陰の役割を持っていることになります。
さらに組み方を見ると、互いの右側、すなわち陰同士がコンタクトするので安定することになります。ダンスはなぜ右側がコンタクトするのか、左側であってもよかったのではないかと以前から疑問に思っていたのですが、陰陽思想で説明がつくのは興味深いことだと思います。踊るときも、右側は静かに相手を受け入れて安定して動かなければいけませんよね。でも実際は、男が右利きのダンサーであれば、右側が必要以上に不用意に動いてしまうもので、そこんところがムズカシイ。
次に、身体の前後で考えると、背が陰で「静」なので体の前面は「動」となり、2人が向かい合って組むということは、「動」同士がコンタクトすることになるので、非常に不安定になりやすい。ですから上手に組むためには、前面を陰にして、背中を陽に転換する必要があるのです。前述の「背中でブレーキを感じる」というのは、背を陽にするということです。
~ 陰の中に陽あり、陽の中に陰あり ~ 身体意識の奥義のひとつです。
なぜスタンダードのホールドやコンタクトがムズカシイのか、これでおわかりになったでしょう。西洋の文化が東洋の思想で解釈できるのはおもしろいですね。
陰陽(いんよう)とは、古代中国の思想に端を発し、森羅万象、宇宙のありとあらゆる事物をさまざまな観点から陰(いん)と陽(よう)の二つに分類する範疇。陰と陽とは互いに対立する属性を持った二つの気であり、万物の生成消滅と言った変化はこの二気によって起こるとされる。
(Wikipedia「陰陽」より)
参考文献
・H22年5月10日 朝日新聞記事
・疲れない体をつくる「和」の身体作法 安田登 祥伝社
藤本明彦
(2010年11月1日更新)