第38回 フロアークラフト
日本インターも外人トップ選手の圧勝に終わり、日本人選手との実力の差をまざまざと見せつけられた感じがしました。予選から、決勝の規定フィガーを練習している姿は余裕の一言です。
規定フィガーとは、16小節の決められたステップを、順番を変えることなく踊らなければならないので、予選のような混雑しているフロアーで踊ることは大変難しいのです。
また、今回のスタンダードはフォックストロットという直進性の高い種目なので、他の選手を避けるのが一層難しいのにもかかわらず、彼らは泳ぐごとくスムーズに踊り続けていきます。予選毎に踊るので、偶然ぶつからないということではなく、彼らの卓越したフロアークラフトの成せるワザであるということが証明されています。
彼らになったつもりでずっと目で追っていくと、ほんの少しスピードダウンしたかと思うと、その後のスピードの立ち上がりが尋常でなく早い。通常、このスピードの緩急に身体の反応が追いつかず、リーダーとパートナーがギクシャクして一体感が失われてしまうものです。
また、スリーステップで進む先の左右に別のカップルが踊っている状況で、どのように避けるのかを見る興味深い場面がありました。選択肢は右か左かセンターの3つです。彼らはセンターをものの見事にスリーステップで踊り抜けて行きました。規定フィガーの練習のつもりで踊っているのですから、他のステップに変えて踊り抜けることも可能なのに、事もなげに伸びやかなスリーステップを表現して行きました。
彼らにとっては直前にコースを判断しているのではなく、もっと以前から周りの状況を判断して、偶然ではなく確信を持って踊っているのです。
規定フィガーに限らず、彼らの踊りを見ていてもう一つ気づくことがあります。それは、時間がゆっくりと流れているように見える点です。
周りの選手が忙しく踊っているのに対し、本当に同じ音楽で踊っているのかと思うほど、見え方が違うのです。例えれば、通常の選手の1秒が、彼らには2秒か、それ以上の時間の流れの中で踊っているように見える。別の言い方をすれば、以前、このコラムで話したとおり、もうすでに踊り終わっているように見える。時間が長いので反応する間が多く、「今」のステップを踊り終わっているので、次への対応が早く行える、というように見えるのです。
この感覚を手に入れたら、どんなに競技が楽しいだろうと思いませんか? 私達が外人のレッスンを好んで受けるのは、この感覚を手に入れたいからかも知れません。
でも実際にレッスンを受けると、特別なことなどではなく、基本のことを繰り返し練習することに気付かされ、唖然とします。彼らの基本の動きは私達より数倍も正確であり、それをトレーニングし、体の芯に落とし込むことで、余裕のある次元の違ったダンスに昇華できるものと信じています。
皆さん、あきらめず、根気よくしっかりベーシックを身に付けましょう。
日本インター決勝を踊った外人トップ選手たち
1位 ミルコ・ゴッゾーリ&エディータ・ダニューテ(イタリア)
2位 ビクター・ファン&アナスタシア・ムラヴィエヴァ(アメリカ)
3位 ドーメン・クラペッツ&モニカ・ニグロ(スロベニア)
4位 マシュー・ルーク&アナ・ロングモア(オーストラリア)
藤本明彦
(2011年7月8日更新)